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妊娠中のレチノール使用

2025.10.15

妊娠中のレチノール使用 〜「怖い」だけで終わらせないために〜

先日、SNS上で「妊娠中にレチノールは危険」という投稿が話題になっていました。
きっかけは、妊娠中にもかかわらずイソトレチノイン(内服レチノール酸)を個人輸入で服用していた患者がイソトレチノイン処方希望で来院された、という医師の投稿。
確かに、皮膚科医としては本当に衝撃的で心配な内容です。

ただ、多くのリプ・引用の一部には正しい部分もありますが、専門的な用語が混同されており、レチノール化粧品を使用中の方に必要以上に恐怖を煽る状況にもなっていました。

皮膚科医として、そして栄養療法を重視する立場から、妊娠中のレチノイド(ビタミンA誘導体)について整理してお伝えします。


■ イソトレチノインとは?絶対に妊娠中NGの薬

まず最も重要なのは、妊娠中に絶対に使ってはいけないものを正しく知ることです。
それは、「イソトレチノイン(内服)」や「トレチノイン(外用医薬品)」といった合成のレチノイン酸です。

これらは皮膚科領域では重症ニキビ治療やセラピューティックと呼ばれる美容治療などに使われますが、胎児に重大な先天異常を引き起こすことが知られており、妊娠中・妊娠予定中の方には絶対禁忌です。

妊娠中の服用はもちろん、服用後もしばらく避妊期間が必要です。
胎児に取り返しのつかない影響を与える可能性があるため、妊娠予定・妊娠中の方は絶対に使用してはいけません。


■ 「レチノール」と「レチノイン酸」は別物

今回のSNS投稿が拡散される一助となったと思われる引用リポストでは、「レチノール酸」という言葉が登場していました。

これは、おそらく「レチノール(化粧品成分)」と「レチノイン酸(トレチノイン)」を混同してしまっています。

レチノールは化粧品に使われることの多い天然型ビタミンAであり、体内で必要に応じてゆっくりと活性型(レチノイン酸)に変換されます。
つまり、レチノイン酸のように直接的に遺伝子発現を刺激するわけではありません

胎児発達に悪影響を及ぼすとされているのは「合成レチノイン酸」であって、レチノールそのものではありません。
(ただし、妊娠中はホルモンバランスや皮膚の吸収特性が変化するため、高濃度のレチノール化粧品はお休みしておくのが安全です。)

成分名 主な使用形態 効能 妊娠中の使用可否
イソトレチノイン 内服薬 強力な皮脂抑制・抗炎症 ❌ 絶対禁忌
レチノイン酸(トレチノイン) 医薬品外用 角質剥離・皮膚再生 ❌ 使用不可
レチノール 化粧品 細胞活性・ハリ改善 ⚠️ 高濃度品は控えるが、一般的な濃度では問題なしとされる

つまり、すべて「ビタミンA誘導体」ではありますが、強さも作用もまったく異なるということです。

レチノールの生理活性の強さを1とすると、レチノイン酸はその50倍から100倍の強さがあるとされています。
医薬品レベルのレチノイン酸と、化粧品に使われるレチノールを同列に「危険」とするのは誤りです。


■ 食事・サプリからのビタミンA摂取について

ビタミンAは胎児の発育に欠かせない栄養素の一つであり、不足すると視覚・免疫・皮膚・骨の発達に悪影響が出ることもあります。

しかも体内で合成されないため、食事から摂取する必要があります。

繰り返しになりますが、赤ちゃんへの影響が心配な成分はレチノイン酸です。

「レチノール」は体内で、レチノール→レチナール→レチノイン酸と変化していきます。

体内では代謝が調節されるので、食事やサプリメント・化粧品で体内に入ったビタミンAがレチノールやレチナールであれば、レチノイン酸過剰による胎児異常は基本的に心配いりません。

ちなみに植物性のビタミンAであるβ-カロテンは体内でレチノールに変換されます。

研究によると、

妊娠中に1日あたり 10,000 IU(約3,000 µgRAE)を超えるレチノールを摂取した場合、催奇形性リスクが上がる可能性がある
(Rothman et al., N Engl J Med, 1995)

とされています。
通常の食事からこの量を超えることはまずありませんが、レバーやうなぎなどの高ビタミンA食品を毎日10人前食べるとか、高容量のビタミンAサプリを連日服用することは避けるべきです。

形態 主な用途 妊娠中の安全性
イソトレチノイン・トレチノイン(合成レチノイン酸) 医薬品(内服・外用) ❌ 絶対禁止
レチノール・レチナール(天然型) 食品・化粧品 ⚠️ 高濃度品は控える
β-カロテン 緑黄色野菜・サプリ ⭕ 安全で推奨

■「怖い」ではなく「正しく知る」

SNS時代は、センセーショナルな情報が拡散しやすいものです。
しかし、正しい区別と用量の理解さえあれば、ビタミンAは母体と胎児双方にとって欠かせない重要な栄養素です。

  • 妊娠中に避けるべきは「合成レチノイン酸」

  • サプリ使用時は 1日10,000 IUを超えないように

  • 化粧品のレチノールは、高濃度を避ければ一般的には安全域

  • ただし妊娠・授乳中は肌トラブルを起こしやすい時期のため、積極的な美容医療・高濃度レチノールケアは控えるのが無難。


■ 最後に:妊娠中は「美容医療すべてお休み期間」と考えて

妊娠・出産という大切な時期は、体も肌もホルモンバランスが大きく変化します。
美容医療もサプリも、「安全性が確立されていないものはお休みする」くらいの慎重さがちょうどよいと思います。

お母さんの体を守ることが、赤ちゃんを守ることにつながります。
そして、出産後にまた美しく健やかに整えていく準備期間として過ごしていただければと思います。


🩺 まとめ

  • イソトレチノイン(内服)は妊娠中・妊娠予定中は絶対NG

  • レチノイン酸(医薬品外用)もNG

  • 化粧品レチノールは基本的に低濃度なら安全域だが、妊娠中は念のため休止推奨

  • SNSの「レチノール=危険」投稿は、成分名の混同による誤解も多い

TAKEDA BEAUTY CLINIC DOCTOR

医療法人TSC タケダスポーツ・ビューティークリニック 皮膚科・美容皮膚科 院長

皮膚科専門医 武田りわ

「美肌は人を幸せにする」を理念に、西洋医学を基礎とする美容医療に栄養医学を取り入れ、体の外側と内側からのケアを提案している。肌の老化を治すだけではなく、老けにくい健康な肌作りが得意。皮膚科専門医、オーソモレキュラー・ニュートリションドクター(OND)認定医の資格保有。

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